テナントに防火管理者は不要なのか
「テナントに防火管理者は必要?」「防火管理者が必要な店舗の条件は?」「防火管理者の役割・業務は?」など、テナントに防火管理者が必要なのかについて、このような疑問をお持ちではないでしょうか。
防火管理者の設置義務は建物の規模や収容人数に応じて異なり、防火管理者の設置が必要な店舗では従業員やオーナーが防火管理者の役割を担う必要があります。
とはいえ、防火管理者の設置基準がわからず不安に感じてしまいますよね。
そこで本記事では、防火管理者の設置が必要な店舗の基準、防火管理者の役割・業務などについて紹介します。
目次
防火管理者とは
防火管理者は、不特定多数の人が出入したり勤務したりする建物で、万が一火災が発生した場合に避難誘導を行ったり、日頃の業務において消防法に基づいた火災防止業務を行ったりする責任者のことです。
防火管理者にはすべての防火対象物に対応可能な「甲種防火管理者」と、甲種防火管理者よりも取り扱える建物に制限が設けられている「乙種防火管理者」の2種類があります。
防火管理者と類似した資格に防災管理者がありますが、防火管理者は火災による災害に特化して業務を行うのに対し、防災管理者は地震・毒物などによる火災以外の災害に備えて消防業務を行うという違いがあります。
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テナントに防火管理者は不要?
消防法で定められている防火対象物には防火管理者の設置が必要であるため、防火対象物にあたる建物ではすべてのテナントに防火管理者を設置する義務があります。
防火管理者の設置が必要なのは、以下のような場合です。
- 不特定多数かつ大勢の人が利用する飲食店や地下街、ショッピングモール、ホテル・旅館など
- 万が一火災が発生した場合避難誘導が困難だとされる特別支援学校、福祉施設、病院など
- 日常のなかで大勢の人が出入りするオフィスビル、事務所、倉庫など
とくに火災が発生した場合に避難誘導が困難であると考えられる施設や、不特定多数の人の出入が行われる施設は「特定用途防火対象物」、そのほかの施設は「非特定用途防火対象物」と区分され、同一建物内に両者が入っている場合は「複数用途防火対象物」として区分されます。
防火管理者が必要な店舗の基準
防火管理者の設置義務は建物の用途・規模・収容人数により異なり、さらに市区町村ごとに異なる基準が設けられている場合もあります。
ただし、一般的に防火管理者が必要な店舗であるかどうかに関する基準については、消防法により以下のように定められています。
防火管理者が必要な建物の条件 | 収容人数 |
火災が発生した場合に避難誘導に困難が生じると考えられる福祉施設 | 10人以上 |
特定用途防火対象物(飲食店、ホテル・旅館、デパート、病院、福祉施設など) | 30人以上 |
非特定用途防火対象物(学校、オフィス、倉庫など) | 50人以上 |
新築工事中の建物(総務省令で定められるもの) | 50人以上 |
建造中の船舶(総務省令で定められるもの) | 50人以上 |
そのほかにも危険物や可燃物など火災を引き起こす恐れのあるものを取り扱う施設、50台以上の車両を収容可能な屋内駐車場などに関しても防火管理者の設置が必要なケースがあります。
また、収容人数を計算する際には「従業員の数」「店内に設置するイスの数から算出される客数」などにくわえ、ホテルや旅館の場合には「設置するベッドの数」を。病院の場合には「病床数」などを合算して計算します。
防火管理者の設置が必要ない建物
防火管理者の設置が必要ない建物の条件は、以下の通りです。
- 特定用途防火対象物のうち収容人数が30人未満である
- 非特定用途防火対象物のうち収容人数が50人未満である
防火管理者の設置が必須ではない場合でも、万が一火災が発生した場合の防災対策・避難誘導などに関して準備する必要があります。
テナントを借りて店舗を開業する場合には、まず該当建物が防火管理者の設置が必要な建物にあてはまるかを確認し、設置が不要な場合でも防火や防災に関する一定の知識を従業員が共有できるような仕組みづくりを行いましょう。
防火管理者の役割・業務内容
ここまで、防火管理者とはなにか、そして防火管理者の設置が必要なケース・不要なケースについて紹介しました。
それでは実際、防火管理者にはどのような役割・業務内容があるのでしょうか。
ここからは、防火管理者の役割や業務内容に関して、次の3つのポイントに沿って紹介します。
- 避難計画
- 防火設備の点検や整備
- 災害への対策
3つのポイントそれぞれについて、くわしく見ていきましょう。
避難計画
防火管理者の業務のうち重要なのが、火災が発生した場合の防火対策について計画する消防計画の作成です。
建物の状況や利用者の動向、従業員の動きなどをすべて把握したうえで、該当の建物の環境にあわせた適切な計画を作成する必要があります。
消防計画には大枠が定められたテンプレートが存在するため、テンプレートをもとに建物の状況・周辺環境を適用させた計画を作成することで消防計画の作成は完了です。
また、作成した消防計画は管轄の消防署へ提出したうえで、店舗の従業員に内容を周知させる必要があります。
防火設備の点検や整備
防火管理者は日頃の点検・整備で防火設備に問題がないか確認します。
ただし、防火管理者が行う点検・整備は外観からわかる点検に限られ、本格的な点検は消防設備士や消防設備点検資格を有する人が行います。
消火器を点検する場合には「規定の場所に正しく設置されているか」「消火器周辺に障害物はないか」「消火器に変形や損傷がなく問題なく使えるか」などを点検します。
日頃行う点検で問題が発覚した場合には店舗内で情報共有を行ったうえで、防火設備の交換・改修を行いましょう。
災害への対策
防火管理者は日頃の業務のなかで災害対策業務を行い、必要であれば従業員に対する防災訓練や収容人数の管理などの業務を遂行します。作成した消防計画に沿って日頃から防災対策を徹底することで、災害防止・抑制を実現できます。
店舗で防火管理者を決める際には実際名義貸しのような状態で従業員のなかから担当を決めることも少なくありません。
しかし、防火管理者が行うべき業務を怠り火災発生時に被害が拡大した場合には、防火管理者本人や従業員を管理する企業に対して刑事罰が下る恐れがあります。
形式的に防火管理者を設置するだけでなく、万が一の災害に備えた準備を店舗全体で意識することが大切です。
テナントの防火管理者が不要か要確認
テナントを借りて店舗を開業する際には、建物が防火対象物に該当するか、防火管理者を設置する必要はあるかについてしっかり確認しましょう。
防火管理者設置の基準は、建物の規模・収容人数・用途に応じて変わるため注意が必要です。
防火管理者の設置が必要な場合には、防火管理者を中心として店舗全体で日頃からの防災対策を行いましょう。