テナント保険とは?補償内容や火災保険との違い、選び方のポイントを解説
店舗や事務所などとして使用するために建物の一画を借りる場合、不慮の事故や災害に備えてテナント保険を検討する必要があります。
テナントとして事業を行う際は、借りている物件に対する損害はもちろん、お客様などの第三者に対するリスクにも備えることが不可欠です。
今回は、テナント保険についての基礎知識や必要性、選び方のポイントなどを解説します。
事業を成功に導くためにも欠かせないリスク対策について、ぜひ参考にしてください。
目次
テナント保険とは
一般的に「テナント」とは、ある物件や施設などの一画を物件のオーナーと賃貸契約を結んで入居する店舗や事務所、またはその借主のことを指します。
本来は、借主や貸借権を有する人のことを指す言葉でしたが、近年は一般的に、入居する店舗や事務所そのものに対して使われています。
「テナント保険」とは、借りている物件(店舗や事務所など)で事業を行う借主のための保険です。火災や水災、風災、盗難など、その物件や施設に発生するさまざまなリスクに備え、損害を補償します。
たとえば、テナントで火災が発生してしまったら、自身の店舗はもちろん、入居しているビルやデパートなどの建物にも被害が拡大してしまう恐れがあります。
店舗として利用する場合、お客様に怪我を負わせてしまったり、食中毒などが発生してしまったりすることも考えられます。
そのような、建物や設備に対する被害だけでなく、第三者への損害なども含めた多様なリスクに備えるための保険が、テナント保険です。
火災保険とは
火災保険とは、住宅やビルなどの建物本体やその中にある家財などが、火災によって被害を受けた場合にその損害を補償する保険のことです。テナントを借りる場合にも、家財や貴重品などの被災リスクを考慮して、火災保険への加入が求められます。
建物の所有者や借主が、自身の財産を守るためにも、火災保険はなくてはならない保険です。
ただし、火災保険は地震や噴火、そして津波が原因となる火災被害に対しては補償されません。地震や噴火、津波が原因となる火災や損壊などに対しては、火災保険に加えて地震保険を付帯する必要があります。
火災保険において、居住用の住宅を対象とした住居物件は、「住宅火災保険」の対象となります。
一方、住宅以外の一般物件や商業施設、工場、倉庫などの建物は、「普通火災保険」の対象となります。
テナントは「普通火災保険」に該当し、補償対象は、建物とそれに収容されている設備、什器(日常生活で使用する器具)、備品、商品などです。
普通火災保険も、住宅火災保険と同様、地震が原因となる火災は、補償の対象となりません。そのため、やはり火災保険に加えて地震保険にも加入する必要があります。
関連記事:テナントにおける火災保険の相場とは?店舗形態と併せて解説
テナント保険と火災保険の違い
テナント保険も火災保険も、火災などのリスクから店舗や事務所を守るものですが、それぞれ補償の範囲が違うことが大きな特徴です。
テナント保険は火災保険よりも補償の範囲が広く、より幅広いリスクに備えることができます。
たとえば、水漏れや浸水、盗難、落下物や飛来物による損害といった、火災保険ではカバーしきれない幅広いリスクに備えることができるのが、テナント保険です。
補償内容は各保険会社によっても違いますが、特約を付帯して、さらに補償内容を広げることもできます。
テナント保険よりもさらに補償範囲が広がり、企業の経営を守るための幅広いリスクマネジメントに利用される保険として、企業総合保険などがあります。しかし企業総合保険は、補償範囲も手厚くなる分、保険料も高額になります。
店舗の規模にもよりますが、小規模もしくは中規模の店舗の個人事業主は、テナント保険で備えることが一般的です。
ただし、テナント保険も火災保険同様、地震が原因となる火災などは補償の対象外となるため、地震保険への加入は別途検討が必要です。
テナント保険の補償内容
テナント保険の具体的な補償内容は、以下の4つです。
- 設備・什器等補償
- 費用補償
- 借家人賠償責任補償
- 施設賠償責任補償
それぞれ解説します。
補償①設備・什器等補償
火災・台風・水漏れ・盗難などによって、貸借した施設内にある備品や設備、什器類(日常使用する器具類)が被害を受けることがあります。その修理費用や再購入費用を補償するものが、設備・什器等補償です。
設備・什器等とは、建物の中に収容されている家財や設備・備品などのことです。つまり設備・什器補償は、いわゆる「物」に対する補償といえます。
たとえば、建物で火災が起こると火が燃え広がり、店舗の設備や什器が使い物にならなくなってしまいます。また、事務所内で使用しているパソコンやオフィス機器がウイルス感染を起こしたりハッキングなどで損害を受けたりした場合なども、大きな被害を受けます。
このような損害に対して受けられる補償が、設備・什器等補償です。
補償②費用補償
火災などで被害を受けた場合、設備や什器などの修理・買い替えが必要になるかもしれません。
そのような修理・買い替えなどにおいて、自己で負担した費用を補償するものが、費用補償です。
設備や備品だけでなく、事務所や店舗が使用できない状態になった際は、一時的にほかの物件を探したり借りたりしなければならない場合があります。
その際に必要となった費用も、費用補償の対象です。
設備・什器等補償が、物的損害に対する補償である一方、費用補償は、経済的損害に対する補償であるといえます。両方の補償を組み合わせることで、損失を最小限に抑えることができます。
補償③借家人賠償責任補償
貸主(オーナー)から借りている建物に、損害を与えてしまった場合、持ち主(オーナー)に対して損害を償う(賠償する)必要があります。
借家人賠償責任補償とは、そのような建物の貸主(オーナー)に対して、貸借人(被保険者)が損害賠償責任を負った際に、その賠償金を補償するものです。
借家人賠償責任補償は、火災、破裂や爆発などによる偶然の事故、水濡れなどが起きた際に補償されるもので、それ以外の場合や故意の事故などは補償されません。
たとえば、借りている物件で水漏れなどが発生して建物に被害を与えてしまい、オーナーから損害賠償請求を受けた場合などが該当します。
補償④施設賠償責任補償
賃借した店舗や事務所内で、自分自身や従業員の不注意や過失によって、第三者に損害を与えてしまう可能性もあります。その賠償責任を補償するものが、施設賠償責任補償です。
たとえば、借りている物件の中につまずきやすい段差があり、お客様が転倒して怪我を負わせてしまうことがあるかもしれません。あるいは、飲食店で提供した食事で食中毒を起こしてしまったなど、不測の事態はいつ起こるかわかりません。
そのような施設を利用している第三者に損害を与えた場合にも、店舗側は損害をつぐなう責任(損害賠償責任)が発生します。その際に支払う賠償金に対する補償が、施設賠償責任補償です。
テナント保険の対象になる事故の例
テナント保険の対象となった事故の例をいくつかご紹介します。
例①火災や爆発など
対象となる事故として、最も大きな被害が懸念されるものが「火災や爆発などの事故」です。
たとえば飲食店で、調理器具の使用中に油が飛び散って発火し、火災につながってしまったケースや、建物の老朽化が原因となり火災につながったケースなどがあります。
火災にはさまざまな原因が考えられ、事故の規模や被害状況も大きく異なります。保険金の支払い額も多額となる傾向があり、数千万円〜億単位の額が支払われていることもあります。
また、火災による直接の影響はなかったものの、消火活動に伴う放水で水に浸ってしまったときや、設備機器が被害を受けた場合も、テナント保険の対象です。
例②食中毒や食品アレルギー
飲食店や食品を提供する店舗では、食中毒や食品アレルギーによるトラブルが発生する可能性もあります。
過去の事例では、飲食店で提供された食品により食中毒が発生し、被害者の医療費や損害賠償に対して数百万円の保険金が支払われました。
食中毒は、複数のお客様で集団感染が発生するリスクもあるため、被害額も数百万円単位と大きくなることが懸念されます。
例③盗難被害
テナント保険の対象となるものには、盗難被害の事例も挙げられます。
たとえば、事務所に鍵をかけていたにもかかわらず、不正に侵入されたことによる盗難被害、盗難グループによる窃盗被害や、財布や貴重品などの盗難被害などといった事例が発生しています。
支払われる保険金額は、盗難された物品の価値に応じて異なり、上限が定められていることもあります。
なお、保険金の請求には、盗難が発生したことを警察に届け出る(盗難届を提出する)ことが必要です。
テナント保険で重要な補償
テナント保険で重要となる補償は、火災、水災、盗難などの損害に対する補償です。火災や水災などは、テナントが入居する建物内で被害が拡大することも多く、大きな損害を引き起こす可能性があります。
テナント内の貴重な設備や商品、備品などの損失につながる盗難も、負担が大きくなるため、テナント保険による補償が欠かせません。
さらにテナント保険では、店舗の損害対策だけでなく、お客様など第三者への被害も考慮する必要があります。
そのためには、施設賠償責任補償など、お客様や第三者への損害賠償責任に備える補償も不可欠です。
関連記事:賃貸テナントに休業補償はある?入っておくと安心できる保険も紹介
テナント保険の費用相場
テナント保険の保険料(月々もしくは年払いで保険会社に支払う金額)は、物件の種類や規模、業種、所在地、保険内容や保険会社によっても異なります。
一般的に、都心部や商業地帯にある物件は、保険料が高くなる傾向があります。
また地震や津波などの災害リスクの高い地域の物件も、保険料が高くなる場合があるため、複数の保険会社の見積もりを比較することが重要です。
たとえば、小規模なオフィスや衣料品店などでは、月々数百円〜という保険商品もあり、保険料も比較的低価格です。
飲食店などの場合はリスクも多様になるため、月々の保険料が少し上がります。
小規模な飲食店の場合は、月々2,000円〜6,000円といったところが保険料の相場です。
しかし具体的な金額は、保険内容・保険会社によって異なります。実際に保険会社に問合せて、提示される見積もりを比較することが、費用相場を調べる確実な方法です。
テナント保険を検討する際のポイント
テナント保険は、貸主から紹介されたり勧められたりすることもあるかと思います。
しかし加入するテナント保険は、借主が自由に選ぶことができます。
保険は、指定されるものに安直に加入するのではなく、慎重に検討して契約したいものです。
そこで、テナント保険を検討する際に注意したいポイントをお伝えします。
ポイント①貸主指定の補償内容を確認する
テナント保険は、物件の貸主(オーナー)から指定されたり紹介されたりすることもあります。その場合は、勧められるままに保険を決めるのではなく、必ず保険の内容をしっかり確認して選ぶことが重要です。
不動産屋が仲介している場合、紹介料が組み込まれていることもあり、必ずしも補償内容が最適なものではない可能性もあります。
指定された保険は安易に契約せず、内容をしっかり確認して、慎重に選ぶことが大切です。
特に注意したいポイントは、以下の3つです。
- 保険料(月々または年払いで保険会社に支払う金額)
- 補償内容
- 保険の対象期間
保険料や補償内容については、次の項目で詳しく解説します。
貸主から紹介された保険に契約する際に、特に忘れずに確認しておきたいのは、保険の対象期間です。
たとえば、前のテナント(入居者)が契約していた保険を継続する形で紹介されることもあります。その場合、保険期間はどれくらい残っているのか、自分が加入したい保険期間を満たすかどうか、調整や延長が可能かなどは必ず確認しましょう。
また、保険期間が長い場合、保険料も高くなることがあります。
自分が希望する期間と適合するか、割高の保険料となっていないかなど、保険料と保険期間のバランスが適切かどうかは、必ず確認しておきたいポイントです。
ポイント②複数の会社を比較し見積もりをとる
テナント保険は、同じ補償内容でも、保険会社によって保険料が異なることがあります。そのため、複数の保険会社を比較し、補償内容や保険料などをしっかり比較することが重要です。
テナント保険を選ぶ際は、以下の4つのポイントを確認しましょう。
- 補償内容の確認
- 保険料の確認
- 保険の有効期間
- 代理店のサポート体制
まず、最も大切なのが、契約するテナント保険の補償内容をよく確認することです。
契約した保険に、必要な補償が含まれていなければ意味がありません。
保険の補償内容は、希望する補償に適合しているかどうかに加えて、どのようなことが補償の対象外となるかについても、しっかりと確認しましょう。
補償内容を確認する際は、保険金額(保険事故が発生した際に支払われる金額)が適切かどうかも合わせて確認することが大切です。保険金の支払い条件や期間、免責金額(契約者が自己負担する損害金額)なども必ず確認しましょう。
また、同じ補償内容でも、保険料(契約者が保険会社に月々支払う金額)は会社によって異なります。最適なものを選ぶためにも、複数の保険会社に見積もりを依頼して、保険料を比較することも大切です。
ただし、保険料の安さだけを基準にしないように注意しましょう。
さらに、保険を選ぶ際には、保険会社や代理店のサポート体制も考慮したいポイントです。
保険の内容について、納得するまで説明してくれるか、保険金の請求や事故処理をサポートしてくれるかなども確認しておきましょう。
保険会社の信頼性や評判なども、チェックしておくと安心です。
ポイント③貸主に交渉する
初めにご案内した通り、テナント保険は借主が自由に選んで契約することができます。貸主から紹介されても、他社の保険と比較し、見積もりを出してもらい、貸主に交渉してみましょう。
見積もりを出すことで、手数料が上乗せされた保険料と比較することもでき、交渉もスムーズかつ妥協せずに進めることができます。
ただし、貸主が指定する補償内容や条件をクリアする必要があるため、その点を事前にしっかり確認しておくことも大切です。
保険は、一定期間継続的に支払いが必要なものであり、変更や解除にも一定の手続きや費用がかかる場合があります。
そのため保険選びは、貸主や保険会社から提示されるものだけでなく、自分でしっかり情報を収集し判断することが重要です。
保険を選ぶ際には、パンフレットやインターネットを活用して幅広く情報を集め、ニーズに合った保険を慎重に選んで契約しましょう。
自衛手段も含めた万が一のリスクに備える
テナント保険は、借りている物件に対する損害賠償責任や、第三者に対する施設賠償責任など、多様なリスクに備える重要な保険です。
また、ほかの物件からの火災で被害を負ったときなど、火を出した相手に損害賠償請求をすることはできても、必ずその金額が支払われるとは限りません。相手に支払い能力がなく、裁判になるケースも多々あります。
そのような場合の自衛手段としても、やはり保険で備えておくことが欠かせません。
保険は「備えあれば憂いなし」という言葉があるように、不測の事態に備えるために重要なものです。
自衛手段も含めた万が一のリスクに備えて、テナント保険への加入は慎重に検討しましょう。