テナント契約での形態と入退去時の注意ポイント5つ
住宅の賃貸契約とテナントビルに入居するための契約は、さまざまな点が違います。法人や企業として契約を結ぶテナント契約は、知らないことをそのままにしておくと多くの場合にトラブルが発生し、後々大変なことになるのです。
ここではテナント契約について、さまざまな方向から紹介します。そもそもテナント契約とはどのようなものか、契約の種類や入居までの手順、入居に際しての注意点などをしっかり確認していきましょう。
目次
テナント契約とは
テナント契約とは、企業や法人がテナントの入居者募集を出しているビルに入居願いを出して結ぶ契約のこと。テナント契約の形態は「普通借家契約」と「定期借家契約」の2つです。
どの契約でビルのフロアを貸すかはビルのオーナーが決めています。どちらの契約形態を選ぶかで借主の負担が大きく違うため、必ず契約前に確認するようにしてください。
普通借家契約と定期借家契約
普通借家契約は一般的な契約のことです。建物のオーナーに正当な理由がない限り、賃貸借契約は自動的に更新されます。
一方、定期借家契約は、契約期間があらかじめ決められている契約のことです。期間が終了すればそれで契約は終わりになります。更新がないため期間が終わると必ず退去しなければなりません。再度契約したい場合は、オーナーと借主が再度合意して契約を結ぶ必要があります。
定期借家契約の趣旨と条件
定期借家契約が一般の普通借家契約と違うのは、オーナー側に正当な事由があるかないかに関係なく、契約を終了させられることです。つまり貸主にとって使い勝手の悪い「普通借家契約」を改善した契約となります。
そのため、定期借家契約ができた趣旨は「優良な入居者の割合を高めて住環境が良い状態で維持されること」などです。
マナーが悪い入居者との再契約は断ることができるため、行動に問題があり他の入居者からもクレームがくる状態である入居者に対し、契約解除が簡単にできなかったときの苦労はなくなります。再契約の条件を最初から借主に伝えておくことで、借主が入居中の行動をより良いものにしてくれれば管理がしやすいうえ、物件の価値も上がると期待できるのです。
定期借家契約のメリット
定期借家契約のメリットは代表的なもので3つあります。
- 時期がくれば確実に明け渡してもらえる
- 優良入居者の割合いが増える
- 物件の価値を維持できる
近年の商業施設では、常に勢いのあるテナントに入居してもらうため、店子の回転をよくしようと定期借家契約を採用しているケースもあります。
定期借家契約のデメリット
何事もメリットだけということはありません。定期借家契約におけるデメリットは次の3つです。
- 賃料設定が安くなる場合がある
- 法的要件を完全に満たさなければ、普通借家契約とみなされる
- 契約期間が短いためテナントに避けられやすい
テナント収入は借りてもらって初めて発生するものです。借主が現れないと維持費ばかりかかる物件になるため、避けられやすい定期借家契約が理由になって賃料を下げるケースも散見されます。
定期借家契約の法的要件
デメリットの項目で述べたように、定期借家契約では法的要件を確実に満たすことが求められます。契約書の中にひとつでも満たされていない項目があれば、普通借家契約とみなされてしまうからです。
たとえば以下の4つのような項目があります。
- 契約提携時には必ず公正証書もしくは書面で契約を締結する
- 契約書には更新がないこと、期間が満了すれば契約終了となることを記載しておく
- 貸主は借主に対し、事前に定期借家契約であることを書面で説明する
- 契約期間が1年以上になる場合、貸主は期間満了の1年前から半年前までの間に、借主に契約期間満了により賃貸借契約が終了することを通知する
最低でも以上のことを満たしていなければ、借主に定期借家契約であることを主張できません。主張できないと、期間が終了しても契約更新になってしまう可能性があるため、注意しましょう。
テナントに入居する手順
自社にあったテナント募集を見つけたら、契約をして入居準備に入ります。ただし、一般家庭の契約とは違い、テナントの場合は簡単に入居できません。
ここではテナントがビルに入居するまでの手順についてみていきましょう。
手順①申込書を出す
最初はテナント契約をするための申込書提出です。申込書には申込者の氏名・住所・電話番号といった基本的な情報だけでなく、申込者の収入状況や連帯保証人の記入が必要なケースもあります。
収入を確かめて間違いなくテナント料が払えるかどうかを確認し、万が一のために保証人を用意させて貸主の安心を確保するのです。
手順②その他の必要書類を出す
入居申し込みには申込書のみならず、事業内容や財務状況を確認できる会社の登記簿謄本や決算書、会社案内などの提出も必要です。これらを提出した後に貸主は審査に入ります。
ここでもし新事業の立ち上げで実績や決算書がないといった場合には、事業計画書や運営資金などの資料を提出します。入居する会社が反社会勢力と関係がないかといったことも見られるタイミングです。
手順③オーナーとの面談
これは必須ではありませんが、貸主であるビルのオーナーとの面談を行うケースもあります。どのような人がテナントを借りようとしているのかを知るために行われるもので、借主は一種のプレゼンを行う必要があります。
手順④審査→結果通知
提出した書類や面談で総合的に検討し、OKがでたら結果が通知されます。ここで初めて正式な契約書を交わし、入居準備へと進められるようになるのです。
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テナントに入居する際の注意点
テナントの入居に当たってはさまざまなルールがあります。入居前に貸主と確認し、後々トラブルにならないようにしなければなりません。入居に際する注意点は、必ず確認しておきましょう。
注意点①設備の不具合確認
一般住宅と同じく、テナントを借りる場合にも退去時に原状回復義務があります。そのため、まずはテナントの壁や床、天井などの状態をしっかり確認しておくことが大切です。
最初からついている傷や汚れは写真など証拠に残し、退去時の原状回復義務から外してもらいましょう。
注意点②契約の種類の確認
自分としては長くテナントに入居するつもりであったのに、契約書が定期借家契約であった場合には、否応なく期間満了で退去しなければなりません。契約書はきちんと確認し、普通借家契約か定期借家契約かを理解しておくことが大切です。
注意点③敷金返還の確認
一般住宅での契約と違い、テナントでは退去時の原状回復工事は借主が負担して行います。そのため敷金は契約終了時に返金されることが基本です。
ただし、契約内容によっては敷金の数%が差し引かれることもあるため、注意してください。この点も契約時に確認しておきましょう。
注意点④現状回復義務と修復の条件
退去時の原状回復では、住宅を借りるときに比べるとその範囲が広いもの。たとえば住宅の場合には範囲に入らない「経年劣化による汚れ」などもテナントでは原状回復の範囲とされます。
また、さほど傷や汚れがなくとも壁・天井・床の貼り直しや塗り直しが求められることもあるでしょう。そのため、契約時に原状回復がどこまでの範囲なのか確かめましょう。
スケルトン物件の場合
入居前にスケルトン状態だった場合は、退去時にもスケルトン状態まで戻すことが原則です。ただし、貸主と次に入るテナントの同意を得た場合には、居抜き物件としてスケルトンにせずに退去も可能です。
居抜き物件の場合
以前のテナントが使っていた内装や設備をそのまま使うことを居抜き物件と呼びますが、自分たちが居抜きで入ったからといって、退去時に居抜きのままで出ていくことが認められるとは限りません。
一般的には、引き継いだそれら以前の内容や設備も含めての撤去が求められます。そのため、事前にどの範囲まで原状回復するかを決めておくことが大切。そうしないと、退去時に大きな費用がかかって驚くことになるでしょう。
注意点⑤物件用途を明確にする
テナントを借りる契約をする際、どのような事業を行うのかを貸主に説明する義務があります。これを無視したり違う説明をしたりすれば、用法順守義務違反と判断されることがあるのです。即契約解除とはなりませんが、用法順守義務違反を理由にして契約解除を通告されるトラブルは頻発しています。
必ず契約時には物件用途を明確にしておきましょう。
関連記事:テナントに入居する際の4つの手順と押さえておきたい注意点を紹介
テナントを退去する際の注意点
テナントを退去する際の注意点について紹介します。
注意点①退去予告は制限内に
退去を決めたら貸主に契約解除を申し出る必要があります。これを「解約予告」といい、一般的には退去予定の3〜6カ月前にはビルのオーナーに連絡しなければなりません。予告をしたのちに、退去のための準備を進めましょう。
注意点②返還敷金の説明を受ける
テナント退去時には契約時に支払った敷金が返還されますが、返還額が少ないとか追加で費用を請求されるとかといったケースもあります。敷金からは原状回復工事費用や家賃滞納があった場合にはその家賃分を差し引いた金額が返還されるからです。
不満が残らないように、どのくらいの返還額になり、その内訳はどういったものかの説明を受けるようにしてください。
テナント契約は慎重さが求められる
テナント契約をする際には一般的な住宅の契約とは違うことが多いため、まずは調べて理解・納得してからテナントを探すようにしましょう。知らないままで話を進めると大きなトラブルになったり、時間やお金を無駄にしてしまうかもしれません。
よりよい契約ができるよう、確認すべきところは確認し、注意深く話し合いをするようにしてください。